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札幌高等裁判所 平成6年(う)45号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

一  本件控訴の趣意は、主任弁護人大塚重親作成の控訴趣意書に(なお、同弁護人は、本件の控訴理由は、原判決には、被告人がMから受け取った現金の趣旨についての事実誤認がある旨、及び被告人の職務権限に関する原判決の法令の解釈適用に誤りがある旨を主張する趣旨であると釈明した。)、答弁は、検察官高橋晧太郎作成の答弁書に、それぞれ記載されているとおりであるから、これらを引用する。

二  控訴趣意中、事実誤認を主張する点について

1  論旨は、要するに、原判決には、被告人がMから受け取った現金三〇〇万円の趣旨に関する事実の誤認があり、この誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかである旨主張する。

すなわち、原判決は、比布町議会議員であった被告人が、北海道自然環境等保全条例に基づき比布町長を経由して道知事に提出しなければならない同町蘭留地区におけるゴルフ場建設計画についての許可申請書の同町長における受理や、道知事がその許否を決するに際して同町長が道知事に対して述べる意見に関する案件が、同町議会又は同町議員協議会で協議される際には、同事業を推進する立場で発言するとともに、他の議員に対しても事前に同じ立場で行動するよう勧誘するなどしてもらいたいという趣旨のもとに供与されることを知りながら、原判示の日時場所において、Mから、現金三〇〇万円の供与を受けたと認定している。しかし、Mは、原判決が認定するような趣旨で右現金を被告人に供与したのではなく、被告人に対し、ゴルフ場建設予定地の地権者らを、土地を売却することに同意するよう取りまとめてくれたこと又は今後とも取りまとめてもらうことに対する対価ないし手数料として、右現金を供与したのであって、被告人もまたそのような趣旨のものとしてこれを受領したにすぎない。したがって、本件現金は、被告人の町議会議員としての職務権限の内容等をどのように解するかという点を論ずるまでもなく(この点については後記三参照)、被告人の町議会議員としての職務との対価性がないから、被告人について収賄罪は成立せず、被告人は無罪である、という趣旨を主張するものと解される。

2(一)  所論にかんがみ、記録及び証拠物を調査し、当審での事実取調べの結果をも併せて検討すると、原判決は、被告人が、Mから、所論が前記1で引用するような趣旨で本件三〇〇万円の現金の供与を受けた旨認定しているところ、原審で取り調べた関係各証拠によれば、本件現金の趣旨に関する原判決の右認定は(後記のとおり、一部その表現に相当でない点などはあるが、)基本的に首肯できると認められ、原判決のこの認定に所論が主張するような誤りがあるとは認められない。以下、その理由を補足して説明する。

(二)  原判決は、その「争点に対する判断」の一1から3までの項で、被告人がAからMを紹介されて、同人から、蘭留地区にゴルフ場を建設することに対する協力を依頼され、Aらとともに、各地権者に働きかけるなどしてMに協力していた状況、被告人が、平成二年九月一三日ころ、Mから直接三〇〇万円の現金を供与された(この現金が、原判示の本件現金三〇〇万円である。)上、同日中のうちにAを介して更に現金二〇〇万円を受け取った(なお、Aは、Mから現金二〇〇万円を受け取った。)こと及びその際の状況、右ゴルフ場の建設は、北海道自然環境等保全条例所定の特定の開発行為(同条例三〇条一項一号)に当たるので、その実現のためには、支庁長あての「特定の開発行為事前審査申出書」を比布町長に差し出すなどした上で(なお、所論は、原判決が「開発許可申請書の同町長における受理」と判示している点について、事件当時いまだ許可申請にまで至っていない段階であるから、右判示は誤りであると主張するが、右判示は、本件供与の趣旨の説明として許可の手続を述べたものと解され、関係証拠に照らすと、右手続は、許可申請書を差し出す前に、右事前審査申出書を差し出して実質審査を受けるのであって、そうすると、右判示の許可申請書は、右事前審査申出書を指すものとも解されるが、表現の適否は別として、所論指摘の趣旨では原判決に誤りがあるとはいえない。)、道知事に対する許可申請を行い、最終的に道知事によって右申請が許可されなければならないが、道知事から許可されるためには、同町長に、積極的な意見を付してもらう(同条例三〇条七項参照)ことが重要であったこと、ところで、比布町長は、従来の慣行に照らしても、道知事に右意見を述べるに当たっては、あらかじめ同町議会の議員協議会での協議を求め、議会側の意向を確認することが予想されたこと、したがって、同町長に積極的な意見を付してもらうためには、議員協議会で右ゴルフ場建設の問題が協議された際に、その建設について議員らの賛同を得ることが重要であったこと等の事実を認定している(原判決の説示内容には、一部これと異なる点もあるが、結局は、以上と同旨の事実を認定しているものと解される。)が、原判決のこれらの認定は、当裁判所としても、首肯することができると認められる。もっとも、付言すると、関係各証拠によれば、Mは、自らがゴルフ場建設事業を営むことを計画していたのではなく、そのオーナーとなる業者を探し、平成二年六月ころ、W株式会社がそのオーナーとなる見込みがついた以後は、同社のため地権者を取りまとめてやるべく種々活動し、また将来同社から右地権者取りまとめのほかにもゴルフ場開設のための各種業務の委託を受けることを期待し、いずれ自己のこれらの活動に対し同社から報酬を受け取ることを期待していたという立場にあったにすぎないことが認められる。なお、原判決は、「犯罪事実」の項中で、「同町蘭留地区におけるゴルフ場建設事業を計画していたM」と摘示し、右「争点に対する判断」の一1の項でも同旨を摘示しているところ、その趣旨はあいまいであるが、所論のようにMがオーナーとしてゴルフ場建設事業を計画していたと読む余地がないともいえないが、しかし、Mが業務委託を受け又はそれを受けることを目論んで、右事業を計画したと読む余地は十分にあり、むしろ、原判決挙示の関係各証拠の内容等に照らすと、その表現の適切さを欠いたきらいがあるものの、原判決も、結局当裁判所の前記認定と同旨の内容を表現する趣旨で、前記のような摘示をしているものと解するのが相当である。所論中には、Mが本件ゴルフ場建設事業を自ら営むことを計画していたという原判決の認定は誤りであると主張する部分もあるが、この主張はその前提を欠くというべきである。さらに、所論は、また、原判決がMから右事業計画についての許可申請をする旨判示したと論難するが、原判決がそのように認定しているものでないことは原判文に照らし明白であって、右所論もまた前提を欠いている。

以上の事実、なかんずく、Mが、平成二年九月一三日ころの当日、被告人と同様地権者らに働きかけるなど種々の活動をしてくれていたA(なお、同人は町議会議員ではない。)に対しては二〇〇万円を供与する一方、被告人に対しては、Aを介して二〇〇万円を供与したほかに、Aには内緒である旨断わって別に本件三〇〇万円を供与している事実は、その際の状況とも併せ、右三〇〇万円の趣旨が、所論主張のような単なる地権者らへの働きかけ等に対する対価ないし手数料ではなく、原判示のとおり、本件ゴルフ場建設の件が議員協議会等に付せられた際にそのために発言し、他の議員にも働きかけるなど、被告人の議員としての立場における活動に期待し、被告人のこのような議員としての活動に対する対価としての性質をもっていたことを優に推認させるものであるということができる。そうして、前記諸事実に照らすと、被告人もまた、右現金を供与された際、その前記のような趣旨を十分認識していたものと推認するに十分である(なお、被告人の認識の内容については、後記(四)をも参照)。また、原判決は特に触れていないが、関係各証拠によると、本件現金を受け取った後、被告人は、現に町議会議員らに対し、本件ゴルフ場建設計画に賛同してくれるよう依頼する言動に及んだこともあること、特に平成三年六月二八日に、本件蘭留地区におけるゴルフ場建設計画の件が現に比布町議会の議員協議会における協議に付せられた際には、被告人は本件ゴルフ場の建設を積極的に推進すべきである旨の意見を述べるなどしたこと、Mらは、本件ゴルフ場建設計画の件がいつ比布町の町議会又は議員協議会にかけられるかなどについて強い関心を示し、前記平成三年六月二八日における議員協議会での協議に際しても、その状況を注視し、右協議会後早速被告人から、議員の意見の大勢がゴルフ場の建設に賛同するものであったという連絡を受けて安堵したこと等の諸事実も認められるのであるが、これらの事実もまた、前記の推認を裏付けるものであることはいうまでもない。

そして、本件では、後記(三)で検討するとおり、前記推認と合致する本件現金授受当事者自身の供述もある一方、右の推認を揺るがすに足りるような特段の事情があるとは一切認められないのである。

(三)  M(なお、同人は、平成五年一月に自殺した。)が、平成四年八月ころ、被告人に対し、前記五〇〇万円の返還を要求する趣旨で送付した内容証明郵便(当庁平成六年押第一七号の1)及び内容証明用紙に記載された「先渡し金の返還請求書」と題する書簡(同押号の2)には、Mが、被告人の町議会議員としての活動の報酬として現金を供与したという趣旨が記載されており、その内容には、現金授受の日、場所、回数等、不正確な点もかなりあるが、右の趣旨に関するMの認識についての記載は、基本的に、前記認定の諸事情とも合致する自然な内容のものということができ、信用するに足りる。なお、Iの検察官調書にも、Mから生前、被告人に役場や議員に働きかけてもらおうと思って現金を交付したと聞いた旨の供述記載があるが、これまた、その信用性を肯認するに十分である。

さらに、被告人の検察官調書には、Mから本件現金三〇〇万円を受け取った際の被告人の認識について、「私はこのお金をもらったとき一応これはこれまでMのために図面を用意したり、地籍図を整えてやったり、更に地権者らを取りまとめるべくある程度動いたことは事実だったので、そのようにして今回の蘭留地区のゴルフ場作りを軌道に乗せるため努力してきたことの謝礼でもあるとは思ったが、それと同時にそれだけにしては金額が余りにも多そうだなとも思った。しかも、Mは、『これからも一生懸命やってもらわなければ。』という意味のことを言っていたので、将来の私の活動に期待しているんだなとも思った。そして、将来の私の活動というと、地権者でもない私のできることは、結局地権者側から相談を受けてアドバイスすることはもとより、M側としては、それだけではなく、私の町議会議員としての活動に期待するところが大きいと思った。その期待というのは何かというと、結局今後とも蘭留地区のゴルフ場開発について町当局が前向きになるよう町議として動くこと、例えば町当局がゴルフ場開発のための審査書類を受け付けてゴルフ場開発を前向きに押し進めることができるように町議会側の賛同を得られるよう、いわゆる議員協議会など必要な場面で積極的な発言をしたり、他の議員も前向きになるよう働きかけたりするようなそのような議員としての活動をしてもらいたいということだと思ったし、Mは、そのような活動に対する謝礼をも含めて、私に金をくれたものであることはそのとき分かった。」、「しかもMは、『Aさんには言わんでくれよ。』と言っていたので、この金は、私に対し、特にAとは別の働きを期待しているのだと思った。そして、それは何かというと、結局のところ、私の町議会議員としての活動、町議会議員としての力添えを期待してその謝礼をくれたんだなと思った。だからこそMは、Aには言わないでほしいと言ったのだと思った。」、「私は、その金をMからもらったとき、後ろめたいという気持ちを抱いた。」などという供述が録取されている。

取調べの状況について、被告人が原審・当審公判で供述しているところや、当審で取り調べた被告人作成の陳述書等にかんがみ、慎重に検討しても、被告人の右捜査段階における供述は、その任意性に疑いをいれる余地がないと認められる(そもそも、被告人側は、原審で、被告人の供述調書についてすべて証拠とすることに同意している。)のみならず、その内容も、前記認定の本件の状況ともよく合致する自然で具体的な供述ということができ、その信用性に疑いをいれるような点があるとは認められない。これに対し、被告人は、原審・当審公判で、本件現金は、専ら被告人の地権者らに対する働きかけ等の活動に対する対価ないし手数料として支払われたものと思っていたのであって、自分の町議会議員としての活動と関係があるとは思っていなかった旨を供述しているが、この公判供述は、前記認定のような本件の状況ないし当時における被告人の立場に照らしても、著しく不自然、不合理というほかはなく、前記検察官調書記載供述とも対比して、その信用性は低いというべきである。

(四)  以上検討の結果に照らすと、Mが原判決の説示する趣旨で本件現金三〇〇万円を被告人に供与したことは明らかであるのみならず、被告人もまた、この現金を供与されたとき、右のような趣旨を認識していたと優に認めることができる。なお、被告人が、Mのため、地権者らの取りまとめ等についてそれなりの活動をしていたことは、証拠上認めることができるし、被告人にとっては、本件三〇〇万円は、当日予告なくMが持ってきたものであり、また、被告人がAを介して二〇〇万円を供与されたのは、本件三〇〇万円の授受よりも後のことであって、本件三〇〇万円の授受の時点で、被告人が、右二〇〇万円を引き続き供与されることになることを予期していたとも認められない。そうすると、被告人が本件三〇〇万円を供与された時点で、この現金が専ら被告人の議員としての活動に対する対価としてのみ供与されたものと認識していたと認められるかについては、疑問をいれる余地もある。すなわち、被告人としては、被告人自身検察官に対して供述しているとおり、本件三〇〇万円は、所論の主張する地権者らの取りまとめ等の活動に対する対価ないし手数料としての趣旨と、原判示の趣旨、つまり、自己の議員としての活動に対する対価としての趣旨の双方を帯有するものと認識していたものと認めるのが相当であろう。もっとも、本件の場合、被告人は、本件三〇〇万円が、前記両者の趣旨を不可分に帯有するものとして供与されたものと認識していたと認められるから、結局は、本件三〇〇万円の全部が前記原判示の自己の議員としての活動の対価としての性格をもつものとして供与された旨の認識を有していたことが明らかである(被告人が、本件現金について、別の趣旨をも併有するものと認識していたか否かは、もとよりこの点の結論を左右しない。)。

所論は、その他、種々の主張をして、この点の事実認定を争うが、いずれも、前説示の諸事情に照らし、理由のないことが明らかであるか、結論に影響がないことに帰する主張であるにすぎず、採用するに足りない。

以上の次第であるから、本件三〇〇万円の趣旨に関する原判決の事実認定に所論の誤りがあるとは認められない(右趣旨に関する被告人の認識についての原判決の認定にも誤りはない。)。論旨は理由がない。

三  控訴趣意中、法令の解釈適用の誤りに関する主張について

1  論旨は、要するに、仮に本件現金の趣旨に関する原判決の事実認定に誤りがないとしても、ゴルフ場建設事業に関して町議会議員が議員協議会等で発言したり、他の議員に働きかけたりするようなことは、町議会議員の職務権限とは関係がないから、被告人が、その町議会議員としての職務に関し本件現金を収受したとして、本件に収賄罪を適用した原判決の法令の解釈適用は誤りであり、この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである、というのである。

2  しかしながら、本件事件後の平成二年一一月一五日から施行された北海道の「ゴルフ場開発の規制に関する要綱」の関係はひとまずおき、本件事件当時適用があった北海道自然環境等保全条例の関係についてみると、前記二2(二)でも説示したとおり、本件蘭留地区におけるゴルフ場建設は、同条例三〇条一項一号所定の特定の開発行為に当たる(北海道自然環境等保全条例施行規則三五条参照)から、道知事の許可を受けなければ行うことができず(同条例三〇条一項本文)、その実施のためには道知事に対し許可の申請をしなければならないものとされる。そして、道知事は、その申請に対する許可又は不許可の処分をするときは、あらかじめ関係市町村長の意見をきかなければならない(同条例三〇条七項)。すなわち、本件蘭留地区のゴルフ場建設計画の場合は、関係市町村長である比布町長が、同条例に基づき、道知事に対し、その意見を述べることになる(なお、関係証拠によると、実際上、道知事の右許否の処分に当たっては、関係市町村長の意見が重視され、とりわけ、道知事からゴルフ場建設を許可されるためには、関係市町村長に積極的な意見を付してもらうことが重要であったことが認められる。)。

そうして、各市町村長が道知事に右の意見を付すことは、事柄が各市町村の自然・生活環境の整備保全、公害の防止、防災等に関わることが大きい事項であるから、各市町村のいわゆる固有の事務に属する(地方自治法二条二項、三項七、八号等参照)と解されるので、各市町村議会は、その市町村の長が右の意見を付す行為に対し、地方自治法九八条所定の検閲・検査等、同法一〇〇条所定の調査などの権限を行使することが可能であり(なお、原判決が、いわゆる機関委任事務に関する同法九九条を挙示しているのは相当ではない。)、また、各議員は、以上のような議会の権限の行使について、これを発議し、あるいは質問し、意見を述べるなど、その際の議事に参画するなどして、これに関与する職務権限を有していることが明らかである。

もっとも、本件は、被告人が、比布町議会が前記検閲・検査、調査等の権限を行使することを予想し、これに関与する自己の職務権限の行使それ自体に対する報酬等として現金を供与されたという事案ではない。

しかしながら、殊に本件蘭留地区で建設が予定されていたような大規模のゴルフ場を比布町に設けるか否かという問題は、環境問題、雇用問題等、同町にとって多くの問題を伴う町政の重要事項であり、町長等、同町の執行部側も、そのような町政の重要事項については、事前に町議会側の十分の理解を得、議会側の意向を踏まえて対処することとするのが通例であったことが認められる。そして、これは、もとより、町長に対して各種の権限(前記検閲・検査、調査等の権限ももとよりその一部である。)を有する町議会側の意向を尊重し、町政の円滑な運営を図ろうとする配慮に出たものであると十分推認することができる。現に、本件蘭留地区ゴルフ場建設問題に先行して建設問題がもちあがっていた突哨山のゴルフ場建設問題については、平成二年三月から平成三年八月までの間、一七回にわたり、比布町議会の本会議、各種常任委員会、議員協議会で、町長側からの報告、議員からの質疑や協議が行われていた。なお、比布町の議員協議会は、成文上の根拠をもって設置が決められている会議ではないが、同町では、従来から、町の重要案件や懸案事項については、議決案件であると否とを問わず、町議会議員全員で構成する議員協議会で協議することが慣例とされ、町長等、町の執行部側も、重要案件等については、あらかじめ議員協議会に協議を要請し、その会議で明らかになった議会側の意向をできるだけ尊重し、それを踏まえて、必要な場合は、改めて議会に正規の案件として提出するなど、町政の運営に当たり、同協議会を重視する運用を行っていた。もとより、このような運用は、やはり町議会側の意向を尊重し、町政の円滑な運営を図ろうとする町長側の配慮に出たものであることが優に認められる。なお、議員協議会は、議長が召集し(昭和五六年二月から施行されている比布町議会先例、申し合せ事項には、「議員協議会は、議長が必要に応じ召集する。」と定められている。)、定例会・臨時会等の終了後、引き続き議員控室内で開催し、議長が司会を行い、町長、助役、所管課長等も出席するのが例である。また、比布町議会では、本会議に上程される議案についても、あらかじめ議員協議会で実質的な質疑を行うなど、実際上、本会議における質疑等の準備的、補充的な段階の行為を議員協議会で行うことが多くあり、執行部側も議員側も、議員協議会をそのようなものとしても活用するのが慣例となっていたと認められる。そして、本件蘭留地区ゴルフ場建設問題についても、被告人のみならず、関係者は、いずれ町長が、道知事に対する意見を述べるなどする前提として、この問題を議員協議会(又は町議会)の協議に付し、議会側の意向を打診するものと予想していたし、現に平成三年六月二八日の議員協議会に本件蘭留地区ゴルフ場の建設問題が協議に付せられ、町長らから説明がなされるとともに、被告人を含む議員らが質疑を行ったことが明らかである。

以上に照らすと、本件三〇〇万円の現金供与の趣旨(その際の依頼の趣旨)として原判決が説示する、本件蘭留地区ゴルフ場建設問題が、比布町議会又は同町議員協議会で協議される際に、被告人が、同事業を推進する立場で発言するとともに、他の議員に対しても事前に同じ立場で行動するよう勧誘するなどするということは、もとよりそれ自体が被告人の前記職務権限の範囲に直接属するものではないが、前記職務権限を背景とし、かつそれと密接に関係する行為と評価するに十分であるというべきである。そうすると、原判決のこの点の説示内容には、当裁判所の以上の判断内容と異なるところもあって、必ずしも相当でないと認められる点があるが、被告人が自己の町議会議員としての職務に関して本件三〇〇万円の現金を収受したと認めて、本件に収賄罪を適用したその結論は十分是認することができる。なお、所論は、種々の理由を挙げて原判決が本件に収賄罪を適用したことを論難し、例えば、議員協議会は、本会議や委員会と異なり、法令上の根拠を欠き、そこで議員がゴルフ場建設問題について意見を述べるのは、一般の有識者等が町長に参考意見を述べたりするのと同じ意味での私的な行為にすぎないなどの趣旨をも主張するが、以上に説示した諸点に照らし、いずれも採用するに足りないことが明らかである。論旨は結局理由がない。

四  よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 萩原昌三郎 裁判官 宮森輝雄 裁判官 木口信之)

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